マクキヌガサタケ

(9月中旬 阿寒町にて)




makukinugasatake



もうタイトルは忘れてしまったが、
小学生の頃に読んだ本に、
成長が早いものの代表として、
タケノコのことが書いてあった。

きっと、そのせいだと思うのだけど、
ぼくは、最近まで、
雨後の筍(たけのこ)という言葉の意味を、
成長が早いこと、だと勘違いしていたのだ。
でも、本来的に意味するのは、
次から次にやたらと出てくるもの、だったんですねえ。
(ああ、恥ずかしい)

で、その本には、
タケノコよりさらに成長が早いものとして、
キヌガサタケの名が連ねてあった。
わずか1時間くらいの間に、
5センチも成長するとか、云々、と。
しかし、絵も写真も添えられてなかったので、
その成長の早いキノコが、
どんな形をしているのかは、ずっと謎のままだった。

当時、生まれたばかりの従兄弟が、
すくすく成長するのを目の当たりにして、
まるでキヌガサタケみたいだ、と思ったものさ、
というのは作り話です。ははは。

ついに、ぼくは、その30年後(ああいやだ)に、
本物のキヌガサタケを目にすることになったのだ。


キノコ小僧に感化されて以来、
森の中を歩くと、つい視線が下を向いてしまい、
知らずのうちに、キノコを探している自分がいる。
そんなだから、ぷにゅぷにゅと柔らかく、
軟式テニスボールみたいな、卵みたいな、
キノコらしからぬ「物体」を見つけるのにも、
大して時間はかからなかった。

事務所に持ち帰り、図鑑を調べると、
キヌガサタケか、マクキヌガサタケの、
いずれかであることが判明。
おお、これが小学生以来ずっと記憶の隅にあった、
「めっちゃ成長の早い」キヌガサタケか!と、
ものすごく感動しつつ、
「発芽」するのを心待ちにしていた。

しかし、待てど暮らせど、
3日経っても、1週間経っても、
「本体」が出てこないのである。
(成長が早いはずなのに……)
そうこうしているうちに、別の森の中で、
この「卵」が群生してるのを見つけたので、
ならば、天然物を観察しつつ撮影しよう、と、
阿寒湖畔から車で10分の場所にある森に、
毎日通うことにしたのだ。

数日のうちに、「卵」が割れてきて、
ゼリー状の中身が垣間見られるようになり、
本体らしき突起の存在も確認できるようになった。
しかし、大きく膨らむ期待もむなしく、
なかなか思うように成長してくれない。

makukinugasatake


さらに数日経過。
いつもは午前中のうちに観察に行くのだが、
その日は、雨があがるのを待って、
午後から森に出かけた。
いやな予感は往々にして当たるものだが、
案の定、ほとんどの「卵」から、
にょきにょきと本体が突き出した後。
(本当に、一挙に伸びちゃうのね)
ちょっとだけ悔しかったなあ。

図鑑にあるとおり、
先っぽの濃い緑色の「グレバ」から、
アンモニア系の、何とも形容しがたい、
悪臭を放っており、シデムシやらの虫が、
大量に集っている。

kinugasatake


その、ぷにゅぷにゅ卵の正体は、
マクキヌガサタケであったのだった。

このキノコは、
中華料理の高級食材として重宝されている、
キヌガサタケと同様に、
臭い「グレバ」を洗い流し、
根っこにある「卵型ゼリー」を取り除けば食べられる。
(中華風スープに合うらしい)
しかし、この臭いを嗅ぎ、大量の虫がいるのを見たら、
思いっきり食欲が失せたので、
採らずに、撮るだけにとどめた。


スッポンタケもキヌガサタケも、
マクキヌガサタケも、
まるで同じ種類のようによく似ている。
(スッポンタケ属、キヌガサタケ属の違いはある)
先っぽのグレバが臭いのも一緒。
しかし、キヌガサタケは、
竹林に生えるらしく、竹が無い北海道には無縁である。

それにしても、この形ねえ。
アレ、に似てるよなあ。
淑女の前ではあんまり口にしたくない、
男のね、ええと、だから、つまり、アレですわ。

「東北のキノコ(無明舎出版)」の解説によると、
糸状菌(繁殖体が超超小さい=微生物)
が形成する有性生殖器官のうち、
肉眼で見えるものがキノコ。
つまり、すべてのキノコは、生殖器官なのだ。
(肉眼じゃ見えない有性生殖器官がカビ)
まさに、見た目通りでございます。

そんなに当たり前に見られるキノコならばと、
北海道から内地にもどった際、
竹林をのぞいてみると、
スッポンタケが、あるわ、あるわ。

suppontake


ガキの頃、どうしてこれに気づかなかったのだろう?
初夏のタケノコが生える時期以外は、
竹林なんかには出かけなかったからだな、きっと。


参考文献
「日本のきのこ」(山と溪谷社)
「東北のきのこ」(無明舎出版)
「キノコの不思議」(光文社文庫)
ほか



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