自然薯大作戦 下

(2001/11/25)



自然薯大作戦は、これからが本番である。

コンビニで昼飯を買い込んだあと、
またまた適当に走り回り、ゴルフ場のわきに、
三方を雑木林で囲まれた小さな池を見つけて、
そのほとりでランチタイムにした。

心地良い汗を流したあと、
陽だまりの香りがする落ち葉に腰をおろし、
おむすびにかじりつくなんざ、
アウトドア雑誌の「楽しい休日の過ごし方」みたいだぜ。
隣に座っているのが、きたない男どもじゃなければ。

腹が満たされたところに、
風にそよぐ枯れ葉の音や、
シジュウカラの鳴き声のBGMを聞けば、
しばしの午睡を貪りたくなるのは人の常だが、
何と言っても、我々には、
完遂しなければならない、大きな目標がある。

寝たがりません、掘るまでは!


ふたたび車に乗り込み、
ふたたびさしたる確信もなく走り回り、
ふたたび雑木林に入り込み、
ふたたびみっちゃんのオメガネに叶う場所を見つけた。

ちょっと歩いただけでも、
先行者が自然薯を掘り出した穴がいくつもある。
(ったく、穴、埋めておけよなあ)
掘り出された土は、もちろん、粘土質の赤土。
憧れの関東ローム層とのご対面である。

それにしても、
これを掘った輩、相当デキるぞ。
直径40センチくらいの穴を、
1メートル以上も掘り下げるとは!
「プロ」に違いない。

ぼくとカサハラが、感心して唸っている間にも、
「あ〜、あそこ、ね」
「あ、これはダメ、アケビだいね〜」
みっちゃんが、自然薯のつるを、的確に指摘する。
先ほどの場所とは違い、ムカゴはついていないのだが、
数はけっこうありそうだ。

「そこなんか、いいんじゃないん」
とみっちゃんが指す方向に目を向けても、
ぼくには、何が何だかぜんぜんわからない。
生い茂ったササをかき分けて、じっくり見てみると、
さっきとは比べ物にならないくらい太いつるが2本、
30センチくらいの間隔で、地中に没しているではないか。
おお、さすが、我が師匠である。
待っててね、愛しの自然薯さま。


自然薯が2つ並んでいるから、
真ん中を掘れば、穴はひとつで済む。
何てラッキーなんだ!と感涙にむせびつつ、
シャベルに体重をかける。
ザザリ。
おお、簡単に土にめり込むではないか。
やっぱり、関東ローム層は、いいなあ。

シャベルの頭を尺度にして、
2つ分くらい掘り進めたところで、
一気に作業効率が悪くなる。
穴の直径が狭いから、土をうまく掻き出せないのだ。

そりゃそうだ。
穴の底で、シャベルを上向きにできなかったら、
すくった土がみんな滑り落ちてしまうのは自明の理。
じゃあ、穴を広げればいいじゃないか!
まったくもってその通りである。

しか〜し。

「ホ〜ッ、ホ〜ッ、ホ〜ッ、ホ〜ッ、ホ」
あ、聞こえますか?
これ、ぼくの、心の声です。高笑いです。
「シロウト的考察は、お捨てになるべきですわ」
名作テレビアニメ『エースをねらえ!』の
お蝶夫人の声をイメージしてみてください。
(これがわかる人、歳に負けず頑張りましょう)

こんなこと書いているから、
バーカ、って言われるんだなあ。
バーカ、って言う方が、バーカなんだよ。

そう、今日のぼくには、「プロ」御用達の、
(ごようたつ、と読まないよーに。恥ずかしいよ)
自然薯掘り3種の神器があるのだ。


最初に登場するのは、
「バルタン星人の手」である。
(考えてみたら、バルタン星人も、すっげえ古いな)
その2つの長い柄は、
1本の棒のようにぴったり重ね合わせると、先が開き、
割くように広げると、先が閉じる構造になっている。
つまり、ハサミと、ちょうど逆ですな。

1.柄を2本とも重ねて握りしめ
2.思いきり土に突き刺し
 十分に土が詰まっているのを確認して
3.柄をがばっと広げて土を確保し
4.そのまま引き上げ
5.穴から出したところで再び柄を閉じて土を排出
とまあ、こういう手順で、
深く細く、芸術的ですらある、
自然薯引き抜き穴を掘っていくわけである。
イッツ、ソー、グレート・カブキ!

自然薯に、近からず、遠からず、
一定の間隔を保ちながら穴を掘る作業は、
ぼくらシロウトにとっては、すごく難しい。
しかし、これをやらねば、
「完全体」の自然薯とのご対面は、夢のまた夢である。


10年前の、悲しく切ない過去がよみがえる。
はじめての自然薯掘りに闘志満々で挑んだものの、
体力まかせにやたら大きな穴を掘ったあげく、
早く掘り出したいあまり作業が雑になり、
ポキポキ折れたお姿しか拝めなかったのだった。

この屈辱を晴らす機会が、世紀をまたぎ、
巡り巡ってようやくやってきたのだ。
短気ガサツ能天気破廉恥人間のレッテルを、
いまこそそぎ落として、
ハナで笑った奴らを見返してやるのだ!
フン、フフ〜ン、フガー!!

そのためには、
愛しの自然薯さまに、熱い視線を送りながら、
とにかく、掘るべし、掘るべし、掘るべし。
日ごろ、運動不足の体には、キツイ。


さて、ある程度、穴を掘り下げたところで、
「棒つきナタ」の出番だ。

現段階では、
自然薯は、穴の縁に、
わずかに顔をのぞかせているだけである。
そこで、本体を露出させるべく、
この道具を使って、丁寧に丁寧に、
自然薯のまわりの土をそいでいくのだ。

土を、サクサクサクと、
穴の中に落としては、すくい上げ、
落としては、すくい上げ、しているうちに、
自然薯の全容が明らかになる。
ヤッタ〜、、、。
思わず頬が緩むほどの大物である。
時間にして、およそ40分。
いやあ、長い道のりだったな。

ZENYOU
画像中央、下に伸びているのが、
愛しの自然薯さまである。


最後の最後に、自然薯を、引きはがす瞬間。
これが、何とも、たまらないのでありますよ。
「完全体」の自然薯さまとの涙のご対面である。
厳かに、晴れやかに、この佳き日を、なんて、
結婚式場のパンフレットに出ているような文言が、
血の巡りがちょっと足りない頭の中を駆け巡るのであった。


2本目を掘り出す作業にかかってまもなく、
雑木林の中で消息を絶っていたみっちゃんが、
「バルタンの手」を取りにやってきた。
けっこうな大物を掘り出しているという。
カサハラは?と探してみると、
奴め、車に寄りかかって、タバコなんかふかしている。
目が合ったら、「今日は、もう、あきらめた」。
勝った!!


大汗をかき、泥だらけになり、
半日以上の時間を費やして
1メートル超の2本プラス逆ハート型自然薯をゲット。
う〜む、満足、満足。
やっぱり、売るなんて、もってのほかだな。
自分で食べよっと。

ZENYOU
2本の大物をゲット!


もちろん、ここでも、師匠のみっちゃんが、
超大物をモノにしたことは言うまでもない。


追記。

自然薯をおいしく食べるには、
毛みたいに生えている細い根っこを焼いて落とし、
皮つきのまますり下ろして、とろろにするといい、
と何かの本で読んだ記憶があったので、
その夜、早速、そのとおりにしてみた。

いやあ、皆さん、すごいよ、天然物の自然薯。
下ろし金ですり下ろして器に入れたのだけど、
それがね、練り物みたいに、箸でつまめるのよ。
そのねばり、そのコク、その香り、、、、
卵黄と青のりとかつお節ときざみネギを加え、
適度にお醤油をまわして、
熱々のごはんにかけてかぶりついた時の幸せ。
ああ、生きていて、良かった。


自然薯大作戦 了

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