自然薯大作戦 上

(2001/11/25)



自然の恵みを享受する会群馬支部の、
桃色肝臓白肺推進健康優良中年部会電話会議で、
ほぼ10年ぶりに、自然薯掘りに行くことが決議された。
で、反面教師特別資格乙2種別項第3条-4により、
ぼくも同行できることになった。

まあ、結局のところ、いつものように、
ぼくと、みっちゃんと、カサハラの、3人で行くのだが。


11月の最終日曜日の早朝、
我々は、燃え上がる闘志を各々の内に秘めつつ、
埼玉県の、小川町、嵐山町、滑川町辺りに広がる、
雑木林を目指して出発した。
よく晴れた、絶好の自然薯掘り日よりである。

みっちゃんは、
妻と、乳飲み子のガキ、もとい、
え〜、お子さまを養っている大黒柱であるからして、
お気楽独身者の他約2名とは違い、
目から発せられるやる気光線がひときわ鋭い。

滋養強壮にすぐれ、美容・健康にもよく、
消化促進なんぞにいたっては効果抜群。
別名「天然の養命酒」と呼ばれる(ウソ)
自然薯を妻子に持ち帰えらずして、
家長たる責任が果たせるもんじゃない。

バルタン星人の手の形をしたスコップや、
棒の先にナタをくくりつけたような、
別名「自然薯掘りプロツール」は、
すべてみっちゃんが用意した。

TOOL
自然薯掘りの3種の神器である。


さらにつけ加えるならば、
自然薯の生態を知り尽くしているのも、
みっちゃんただ独り!

「八百屋に売ればいくらになるかなあ」
「この際、親戚に高くふっかけるってのはどうだ」
などと、換金=臨時収入に偏向した欲望を、
爪の先で燃やしてる他約2名は、
つまるところ、全面的に、
みっちゃんに依存しているのであった。


出発前、ぼくは、自宅の車庫を眺め、
ポルシェで行くか、ベンツで行くか、
ちょっとだけ迷ったのだけど、
結局、悪路走行性能が高いジムニーを選んだ。
世界にはスーパーカーがたくさんあるが、
ぼくの愛車はジムニーだけだから仕方がない。

高速道路、一般道、市街地、ゴルフ場などなど、
いわゆる「開発」のために、雑木林は、
なぎ倒されたり、引っこ抜かれたりされ、
かつて武蔵野と呼ばれた頃の面影は、
いまや、セピア色の写真でしか見ることができない。
しかし、それでも、市街地を抜けると、
昔懐かしいような風景が広がっている。

畑のまんなかにぽつんとある、一軒の農家。
庭先には柿の木があって、最後に2つ3つ残った実を、
ヒヨドリの夫婦がついばんでいる。
納屋を兼ねた二階の物干しには、
漬物用の大根がたくさん並べてあり、
もちろん、南に面した縁側の日だまりには、
気持ち良さそうに昼寝をしてるネコがいる。
以上の、いかにも、という描写は創作だが、
まあ、そんなイメージを思い浮かべてくれ。

雑木林のコナラやクヌギの木は、
すでにたくさんの葉を失っているのだが、
それでも遠くから見ると、
赤銅色の林が広がっている様子は、
初冬の青空の下によく映え、実に美しい。

幹線道路から離れてほどなく、
民家は少なくなり、自然の色が一層濃くなる。
走るにまかせたので、地名はまったくわからないが、
山すそを縫う車幅ギリギリの悪路へ突入してすぐ、
「あっ、ムカゴがある!」
とみっちゃんが叫んだので、車を停めた。


これから先は、
経済長期停滞大量リストラ時代に必須、
「みっちゃん先生のサバイバル自給自足生活術」
の一端を一番弟子のぼくが代わりに伝授する。
バーカ、などとは言わず、心して読んでいただきたい。

自然薯を掘るにあたり、
この季節を選んだのには、もちろんワケがある。
簡単に言ってしまうと、自然薯の味と、探しやすさは、
季節が進むにつれ、反比例するのだ。

自然薯はだいたい、
9月頃から食べられる(まだ青臭い)ようになるのだが、
味が、ぐぐぐぐ、と良くなるのは、2月か3月である。

一方、冬が深まるにつれ、
目印になる葉っぱや茎が枯れてしまうので、
自然薯本体を探すのは、非常に困難になる。

その折り合いをどこにつけるか?
素人、毛生え素人レベルなら、迷わず、
味が良くなりつつ、葉っぱや茎が枯れてなくなる直前、
つまり、12月初旬前後、を狙うに限る。

自然薯掘りを決行する季節はこれで決まった。
じゃあ、次の段階に進もう。

つる性の多年草である自然薯は、
木々に巻きつきながら、上へ上へと茎を伸ばす。
したがって、常に林の上の方に細心の注意を払い、
とにもかくにも、つる植物の葉を探すのが、
発見への第一歩である。

その葉っぱが、細長いハートの形をしていて、
茎に対して左右対称に2枚ずつ生えていたら、ビンゴ!
葉の根元に、直径1センチくらいの、
小さな実(専門的には、地上塊茎、と言うらしい)
がついていたら、それは間違いなく、自然薯だ。

この「実」が、俗に言うムカゴで、割ってみると、
自然薯と同じく、ネバネバ、シャキシャキしていて、
ナマで食べても微かな甘味があり、うまい。
(バター炒めがオススメよん)


さてさて、車から降りた我々は、
持参のシャベルを手に、林のあちこちに散った。
ぼくは、ちゃっかりと、
みっちゃんが見つけたムカゴつきのつるを我が物にし、
切らないように、丁寧に丁寧にたどって、
地中に埋まっている愛しき自然薯さまの頭を見つけた。

もし、万が一、ちょっと掘ってみて、
小さい塊がいくつもついているようだったら、
それは、トコロと呼ばれる奴だ。
「オー、マイ、ガッ」と叫ぶなり何なりしてから、
黙って土を埋め戻すしかない。
食ってもぜんぜんうまくないから。

掘りはじめたところで、予想もしていない事態が起きた。
小石や砂利の層にぶち当たってしまったのだ。
つまり、この場所は、我々が思い描いていたような、
関東ローム層特有の、粘土質の赤土ではなかったのである。
あぎゃぎゃ。

しかし、ぼくは、負けなかった。
大きなシャベルを小さなスコップに代え、
根性だけで掘り続けた。
大石、小石、ササや木々の根っこと格闘すること30分。
ついに、逆ハート型をしている、
記念すべき自然薯第1号を掘り出したのである。

ぼくの労力もそうだが、
小石を避けて、横に斜めにと、
たくましく成長していった自然薯に、拍手。
パチパチパチ。

みっちゃんと、カサハラはいかに、と思い、
彼らを探して、その成果を探ってみると、
何と、二人とも、ぼくより大きい自然薯を
モノにしているではないか!
ふん、折らずに掘り出せたのはぼくだけだもんね。

BOOTY
左から、みっちゃん、カサハラ、ぼくの成果


力ずくで掘るから手のひらは痛いし、
無駄な体力を要して汗ばかりかくし、
何よりも、この条件じゃ、
大物をゲットするのは難しい、と、
珍しく意見がまとまったので、
早々に場所を替えることにする。
腹も減ったことだし。

つづく

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