女王様、-20度初体験 1

(2002/1/13〜15)




世界を駆け巡るライタ−のミミ女史が、
しもべのマゾ・フェミニスト・カメラマンを伴い、
冬の北海道へ初めてお出かけになるという。

ヒツジ番兼北海道ガイド担当としては、
驚天動地・酒池肉林の冬期北海道フルコ−スへ
ご案内すべく案を練ったのだが、
スケジュ−ルの都合で、
二人の方が先に北海道へ渡ってしまった。
キロロリゾ−トでのスキ−はご満悦だったものの、
その後は、しもべくんの奮闘努力にもかかわらず、
悪天候、流氷未着などの不可抗力が重なり、
ヒツジ番が数日遅れて帯広で合流した時には、
女史のご機嫌は、やや斜めに傾きつつあった。
ううっ、しもべくん、可哀想。

ヒツジ番の愛車ジムニ−・シェラは、
本人がひと冬過ごす大量の荷物で、
すでにあふれている状態。
そこに、大人二人と、
さらに同じくらいかさばるバックパックを載せるのだから、
こりゃあ、どう考えても、女史の不快指数は、
5億くらいに跳ね上がってしまうのは避けられない。
それを考えると、夜も眠れなかったしもべくんは、
ヒツジ番からさらに、つい1時間前、
日勝峠を走行中にジムニ−のトランスファ−が故障した、
と聞かされたものだから、その心情は、想像に難くない。

「後輪駆動で走るなんて危ないんじゃないですか」

不安にかられたしもべくんが言う。

「いやいや、大丈夫、大丈夫、冬道は慣れてますから」

楽天主義者のヒツジ番が安請け合いする。

「死にたくない」

と、女史。
まあ、何だかんだ言っても、
「足」はジムニ−しかないのだ。
我々は、ル−フキャリア−までも荷物でいっぱいにして、
正午やや前に、阿寒湖を目指して出発したのであった。


十勝川温泉の白鳥飛来地で遊び、
池田の「ハピネスデイリ−」でアイスクリ−ムを食べ、
白糠の「やはた」でしょうゆワンタンラ−メンをすすり、
ようやく女史も上機嫌になった。
タンチョウの撮影をしたい、
という二人のリクエストにお応えして、
鶴居村の「鶴見台」へ向かう。

ジムニ−のオ−ナ−であれば、
その後部座席に、天使と悪魔が潜んでいる、
ということを認識していると思うが(ホントかよ!)、
整備された国道を走行している分には、
かなりの確率で、天使が微笑むのである。
ほどよい揺れと、ほどよい光と、ほどよい暖房が、
耳元で優しく子守歌を歌ってくれる。
ベンツの後部座席にしか座ったことのない人であろうと、
順当にいけば、ものの10分もたたないうちに、
蜜のように甘く深い眠りに包まれるはずで、例に違わず、
女史もみるみる眠りの世界へ旅立って行ったのだった。

「鶴見台」は、3連休の中日ということもあって、
見学者やカメラマンであふれている。
見学指定場所の柵の向こう側、
50mくらいのところに大きな木が1本あって、
その周辺で、30羽はゆうに超すタンチョウが、
ダンスをしたり、そろそろ歩いたり、1本足で寝てたりと、
さまざまな姿を見せてくれる。
また、2羽、4羽と、主に南の空から、
頻繁にこの「給餌場」へと飛来してくる。
白一色の雪原に、タンチョウの黒い羽と赤い頭が映える。

でっかいジッツォの三脚を立て、
400ミリのレンズに1.5倍のテレコンバ−タ−をつけた
しもべくんのニコンのモ−タ−ドライブの連写音が、
おれプロやけんね、と主張をするかのように、
カシャンカシャンと辺りに響き渡る。
女史は、愛用のキャノンイオス1が修理中ということで、
しもべくんのニコンF5を手にしている。

「露出は?」

と、女史が聞くと、

「250分の1で、F16」

すかさずしもべくんが答える。
聞くも、答えるも、さすが二人ともプロである。

「F5のオ−トでOK、念のため段階露出でプラス0.7」
というヒツジ番とは、大違い。

同じカメラなのに、使い方にこうも差がでるのだ。

しかし、「鶴見台」には、
タンチョウの写真を撮るうえで、大きな欠点がある。
見学指定場所から撮影すると、
背景に赤い屋根の民家がバッチリ写ってしまうのである。
当然、プロの二人も、それを快く思わず、
日が暮れないうちに早々と、
阿寒町のタンチョウ観察センタ−へ移動することに。

夕やみが迫る中、次々に飛来し、
また飛び立つタンチョウたち。
写真を撮るには絶好のシチュエ−ションなのだが、
16時半の閉館時間まで30分を切っていたので、
3人組は、入場料400円を払うのが惜しくなり、
建物の外でぼんやりと眺めるのみである。

今夜のねぐらは、「阿寒ネイチャ−センタ−従業員宿舎」。
いよいよ明日は、厳寒の原野に繰り出すぞ。


つづく

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ESSAY
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